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個人事業は天国?

第215_1号 2012年4月

1.はじめに

個人事業は、法人と違って設立登記などなく、気軽に始められる事業形態です。事業運営はすべて個人事業主が思うように運営すればよく、法人のような役員や株主、定款などといった面倒なことは何もありません。この個人事業を今回のテーマとします。

2.大王製紙の会長が個人事業だったら

大王製紙の会長がカジノでの負けを取り返すために大王製紙の子会社などから多額の資金を引き出し、会社法違反(特別背任)の罪に問われました。

特別背任罪は、会社経営に重要な役割を果たしている者が、自己の利益のためにその任務に背く行為をして、会社に損害を与えると成立する罪です。

大王製紙の会長が個人事業として製紙事業を営んでいたら今回の事件はどうなるでしょうか?個人事業主が、自らの事業で稼いだお金を数十億円銀行から引き出してカジノで使っても、何ら罪に問われることはありません。「自分のお金を使って何が悪い!」ということになります。

3.子会社では貸付金に

会長が引き出した数十億のお金は、大王製紙の子会社ではどのように経理処理されているのでしょうか?おそらく子会社では、会長に対する「貸付金」で経理処理されていると思われます。子会社の決算書には、会長が借りたお金を返済するまで「貸付金」として残り続けることになります。

一方、会長が個人事業主であった場合は、会長がカジノで使ったお金は「事業主貸」という勘定科目で経理処理されます。しかし、この「事業主貸」という勘定科目は、子会社の「貸付金」と違って、翌年には決算書からきれいサッパリと消えてなくなります。自分で稼いだお金ですから、いくら使っても返済する必要はないわけです。

4.会長は利息を払う必要がある

法人税法では、会社から役員がお金を借りた場合には、利息をとる事になっています。大王製紙の子会社が銀行からお金を借りていればその借入利率相当額、または、4%に公定歩合を加算した利息を会長から取ることになります。会長が利息を払えなければ、利息相当額は会長に対する給与として課税されるか、子会社が利息を会長への未収入金として計上するかのいずれかの処理となります。

一方、個人事業であった場合は、こんな法人のような面倒くさい経理処理は一切不要です。

5.お父さんが肩代わりしたら

大王製紙の創業者の子である会長のお父さんに、子会社からの借入金の返済を肩代わりしてもらうと、親から子への贈与となり、多額の贈与税が課税されます。親が会長に資金を貸し付けて、そのお金でもって子会社からの借入金を返済するということも考えられます。

いずれにしても事の終息にはまだ時間がかかるでしょう。子会社のひとつを会長の個人事業として経営しておけばよかったのかもしれません。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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