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退職金について

第239号 2014年4月

1.はじめに

バブル期に高値で購入したゴルフ会員権を売却して、多額の売却損を出すことにより、給与所得などの他の所得と損益通算することで節税できましたが、税制改正により今年の4月からはできなくなりました。

また、給与所得の計算で優遇されていた給与所得控除も、昨年から給与収入が1,500万円を超えると今まで上限がなかったものが、245万円の上限が設定されました。更に平成28年では給与収入が1,200万円を超えると給与所得控除の上限は230万円となり、平成29年以降は給与収入が1,000万円を超えると給与所得控除の上限は220万円になります。

このように、我々が節税の手段として使っていた制度が、税制改正により少しずつ抑え込まれています。

しかし、毎年税制改正の度に改正の噂はあがりますが、粘り強く改正されずにいる制度があります。それが退職所得です。

2.改正されたら困っちゃう

クライアントの税務調査に立ち会っていたとき、退職所得の計算に関する改正の話をしていると、年配の調査官が「私はあと数年で退職ですので、それまでに改正があると困りますよね」と一言。更に「退職所得の改正は一般の納税者だけでなく、我々公務員も同様に影響を受けるわけですから、そうは簡単に改正されないでしょう」と言っていました。

3.退職所得はどれだけ有利なのか?

上場会社でも、退職金制度を廃止して、毎月の給与にその分を上乗せして支給するようなことが行われています。そこで、20年勤続すると2,400万円の退職金が支給される場合と、現在の給与30万円に退職金相当額として10万円を上乗せして毎月40万円を20年間支給される場合の税額を比較してみましょう。

勤続20年で2,400万円の退職金を支給した場合の所得税と住民税の合計は約203万円です。

一方、月額30万円の給与の所得税と住民税の年額は約30万円、20年で600万円、月額40万円のそれは約50万円で、20年で1,000万円です。

退職金の場合の税額は、退職金と30万円の給与で203万円+600万円=803万円です。一方給与に上乗せた場合の月額40万円の給与の税額は1,000万円ですので、およそ200万円ほど退職金の場合より税金の負担が多くなるのです。

4.退職金は法人の損金となる

退職金を支給すると、法人の損金となります。法人の経営者が引退して自分の会社から1億円の退職金をもらったとすると、その1億円はその法人の損金となり法人の節税となります。かつ、1億円をもらった経営者個人も退職所得として税金が有利になるわけですから、払う方ももらう方も退職金はお得な制度と言えます。

5.退職金はお金がないと払えない

従業員や経営者に退職金を支給するためには、計画的な資金計画が必要となります。

毎月一定額を退職金目的の積立預金としてプールしておくことも一つの方法ですが、従業員には中小企業退職金共済制度(中退金)、法人の経営者には生命保険を活用するのがよいでしょう。

中退金は、毎月5千円から積み立てることができ、掛金は全額法人の損金となります。従業員が退職する際には、独立行政法人勤労者退職金共済機構から掛金に応じて従業員に直接退職金が支給されます。法人は退職金支給の資金繰りを気にすることもなく、また従業員も退職金の受給が確実に確保できますので安心です。

経営者の退職金は、退職時期に満期や解約返戻金を受け取れるような生命保険を設計して加入すると、経営者に万が一のことがあった時の補償と退職金支給の原資作りが同時にできます。また、法人が支払う生命保険料は、一定額が法人の損金となりますので、節税にもなります。

6.退職金の分割払いもできる

法人の借入金を返済する目的で、法人が長年所有する不動産を売却することがあります。しかし、不動産の売却で多額の利益が発生するため、納税資金が多額に必要となって借入金の返済に資金をすべて使えません。そのような場合、法人の代表者が取締役を退任して、多額の退職金を損金として計上すれば、納税は抑えられ、資金を借入金の返済に回せます。

しかし、借入金の返済を優先すると、退職金を支給する資金がないことになります。このような場合には、退職金の分割払いを選択しましょう。分割払いでも、退職時に退職金の全額を法人の損金とすることができるのです。

7.個人事業主は退職金を払えない

法人の経営者は自らに退職金を支給することができますが、個人事業主は自らに退職金を支給することはできません。

そこで利用したいのが、小規模企業共済制度です。掛金の上限は月額7万円で、掛金は社会保険料控除などと同様に全額所得控除をすることができます。

課税所得1,000万円の個人事業者が月額7万円を20年間掛け続けた後に個人事業を廃止すると、掛金合計は1,680万円、受取る共済金は約1,950万円となります。しかも共済金は退職所得となり税金が優遇されます。

そして、毎月掛金を支払うことにより年額36万7,000円の所得税と住民税の節税効果があり、20年間では734万円の節税ができることになるのです。かなり有利な制度です。この制度は個人事業主のみならず、中小企業の役員も加入することができます。

8.退職所得計算の例外

退職所得は、(退職金-退職所得控除額)×1/2で計算されますが、法人の役員等で勤続年数が5年以下の場合は、1/2計算の適用がありません。ですので、役員の退職金は勤続5年超で支給した方が有利になります。

また、2社以上の役員を兼任していて各社から退職金が支給されることがあります。この場合、一番初めに支給される退職金は問題ないのですが、2番目以降に支給される退職金が、前回支給時から5年以内ですと勤続年数のうち先に退職した法人と重複している期間だけ退職所得控除額が少なくなることがあります。代表者が複数の法人を兼任しているような場合は、退職金支給の間隔を5年を超えてするようにした方が有利となります。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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