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370 億円申告漏れ

第345号 2023年2月

1.はじめに

1 月25 日付、日本経済新聞の1 面に、「M&A税務 370 億円申告漏れ」という記事が掲載されました。

ソフトバンクグループ(SBG)が東京国税局の税務調査を受け、2021 年3 月期までの2 年間で約370 億円の申告漏れを指摘されたという内容です。合併に絡む有価証券の取得に関し、取引費用が過大に計上されていたとのことですが、結局のところ税務申告は2 年間ともに大幅な赤字であったため追徴課税はありません。

2.国税との見解の相違

SBGは、「経費計上タイミングなどの見解の相違によるもの」とコメントしていますが、具体的にどのような論点で見解が分かれたのでしょうか?

今回、焦点となったのは、M&Aのデューデリジェンスなどの関連支出が「費用」か「資産」かという税務処理の判断です。

「費用」として損金処理できれば、短期的には利益が減ります。一方で、「資産」となると、株式を売却するまで税務上の損金となりません。

3.デューデリジェンスとは?

M&Aにおけるデューデリジェンスとは、買収予定の企業の価値や買収による効果・リスクなどを、財務や法務・事業面など詳細に分析する調査を指します。

自社で行うほか、金融機関や法律事務所、監査法人などの専門家が代行するなど、大型案件だと費用も数億円、数十億円になることがあります。

4.有価証券の取得価額とは?

有価証券の取得価額については、法人税法施行令に定めがあり、購入した有価証券の取得価額は「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と規定されています。

今回、SBGは「費用(雑損失)」処理をしましたが、国税は、上記の下線部に該当するものとして「資産(有価証券)」処理すべきと指摘したものと解されます。

5.「費用」「資産」の線引きは意思決定?

国税不服審判所の裁決事例では、次のような解釈があり、取締役会などの最終意思決定がある前は費用、決定後は資産計上とされています。

「どの有価証券を購入するか特定されていない時点において、いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出は、この有価証券の購入のために要した費用に当たらないものの、特定の有価証券を購入する意図の下で当該有価証券の購入に関連して支出される費用は、有価証券の購入のために要した費用として当該有価証券の取得価額に当たるものと解される。

6.おわりに

今回のように、税法上の取扱いが明確でなく納税者と国税当局とで見解が分かれ、裁判で争われるケースも多々あります。

税法とは、「一読難解、二読誤解、三読不可解」と言われることがあります。誰が読んでもわかりやすい法律になればと願うばかりです。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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