週刊節税教室

武富士前会長の長男1600億円申告漏れ

贈与税・相続税
第173号 2005/3/7

☆質問

『新聞に消費者金融大手武富士の前会長の長男が、1600億円もの贈

与税の申告漏れを指摘されたと出ていました』

『とてつもない額ですが、いったいどうしたのですか?』

★回答

これは贈与税の仕組みを突いた節税策が問題になったものです。

☆質問

『どのような節税策ですか?』

★回答

贈与税は財産をもらった者(納税義務者)が支払う税金です。

贈与税は納税義務者が財産をもらった時に、その者の住所が国内に

あるか否かにより適用が異なります。

納税義務者の住所が国内にあれば、贈与された財産の所在が国内で

も国外でも贈与税が課税されます。

一方、納税義務者の住所が国外にある場合は、贈与された財産の所

在が国内にあれば贈与税が課税されますが、国外にあれば贈与税は

課税されませんでした。

☆質問

『課税されませんでした、ということは税法の改正があったのです

 か?』

★回答

そのとおりです。

2000年の4月1日に改正があったのです。

☆質問

『改正前は、この贈与税の仕組みを利用した節税策がとられていた

ということですね?』

★回答

そのとおりです。

子供を海外の大学に留学させて、住所も移してその国で居住させ、

親は海外の不動産などを買ってその子に贈与するという方法です。

納税義務者の住所が国外にあり、贈与された財産の所在も国外です

から日本の贈与税はかからないわけです。

☆質問

『なるほど。この方法を使って贈与税を免れたということですね?』

★回答

はい。

まず会長がオランダに法人を設立し、その会社に会長夫妻が所有す

る武富士株をその会社に売却します。

そして香港に住んでいる長男にオランダの会社の株を贈与したので

す。

香港の税法では贈与税自体がありませんので、日本の贈与税がかから

ないばかりでなく、香港でも長男に贈与税はかからないわけです。

つまり、まるっきり税金を払うことなく、上場して価値を増した

1,600億円もの武富士の株式を、親から子へ実質的に贈与したことに

なるのです。

☆質問

『では、なぜこの贈与が今回問題になっているのですか?』

★回答

このような税逃れを防ごうと、2000年4月1日から贈与税の改正があっ

たのだけれども、この改正を見越した「駆け込み」的なことがあった

のと、長男の香港での居住実態を調べたところ、居住の実態がなく税

逃れを行ったと認定されたようです。

☆質問

『贈与税の改正で、今現在ではどのような扱いになっているのですか

 ?』

★回答

現行では、財産をもらう者の住所が国外にあっても、その者が日本国

籍である場合は、5年を超えて住所が海外にないと、たとえ親から国外

財産を贈与されても贈与税が課税されます。

つまり、日本国籍であれば5年超海外で居住していること、または外国

籍であれば、国外財産を贈与されても贈与税がかからないことになり

ます。

☆質問

『よくわかりました』

『しかし、追徴税額が1,300億円というのもすごいですね』

★回答

個人の追徴税額としては過去最高ということです。

毎年、この確定申告の時期にはなぜか大きな脱税事件などが報道されま

すが、これも報道を通じて「正しい申告をしてくださいよ」と国民に呼

びかけているのでしょう。

公認会計士・税理士・行政書士
井上 修
◆発行 アトラス総合事務所

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