女性の再婚禁止期間と嫡出子推定
女性の再婚禁止期間
女性は、離婚や死別、或いは婚姻の取り消しにより前の結婚が終了してから6ヶ月経過しないと再婚してはならないと民法に定められています。(民法第733条)
いわゆる『女性の再婚禁止期間』と呼ばれている制限です。
この制限は、女性のみに要求されており、一見すると理不尽なような気もしますが、民法には何故このような規定が存在するのでしょうか?
それは、民法第772条に定められている『嫡出子推定の規定』と密接な関係があるからなのです。
嫡出子推定の規定
民法第772条においては、次のように定めています。
(一項)妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
(二項)婚姻成立の日から200日後、又は、婚姻の解消若しくは取消の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に
懐胎したものと推定する。
一項の規定は、婚姻関係にある妻が、婚姻中に懐胎(妊娠)した場合には、その子供は婚姻中の夫の子供と推定する、というものです。
二項の規定は、第一項にある『婚姻中に懐胎(妊娠)した』という事実証明の困難さを補完する為に設けられた規定であり、この規定により婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定され、これが第一項に繋がり、その子供は夫の子供と推定される事になります。
なお、二項にある『200日後』というのは、『201日目以降』という意味です。
〔嫡出子〕
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子供の事をいいます。
一方、法律上の婚姻関係に無い男女間に生まれた子供を非嫡出子といいます。
〔推定〕
「推定」とは、法律用語の一つで、ある事象(A)が生じた際に『とりあえずBの事象として取り扱います』と仮の取り扱いを定める際に用いる用語です。
これは確定的な取扱いを意味するものではない為、『そうではない』とする確固たる反証があれば、取り扱いが覆ることになります。
再婚禁止期間と嫡出子推定
再婚禁止期間を守っていれば、上記の嫡出子推定の規定により、結婚後200日経過後に生まれた子であれば、その結婚による夫の子と推定されますし、離婚等から300日以内に生まれた子であれば、前の夫の子と推定されます。
例えば、離婚から200日目に再婚し、離婚から250日目に子が生まれた場合を考えてみましょう。
再婚禁止期間を守ると?
『離婚から200日目』に再婚しているので、再婚禁止期間である『6ヶ月(約180日)』は守られているので、再婚禁止期間に違反していません。
一方、離婚から250日目に子が生まれていますが、その子は、結婚から50日目に生まれている為、『結婚から200日後に生まれた子』には該当しません。
その結果、その子は、嫡出子推定規定の二項にある『離婚から300日以内に生まれた子』に該当し、前の夫の子として推定される事になります。
では、再婚禁止期間を守らずに再婚した場合には、どうなるのでしょうか?
再婚禁止期間を守らないと?
例えば、再婚禁止期間を守らずに離婚から30日目に再婚し、離婚から250日目に子が生まれた場合を考えてみましょう。
離婚から250日目に子が生まれたという事は、『結婚から200日後に生まれた子』に該当しますので、この子は、現在の夫の子と推定される事になります。
その一方で、離婚から250日目に生まれた子なので、『離婚から300日以内に生まれた子』にも該当し、前の夫の子としても推定される事になります。
この結果、ここで生まれた子は、現在の夫の子なのか?又は、前の夫の子なのか?が不明になってしまうという大問題が生じてしまいます。
だから再婚禁止期間がある
ここでお分かりになるとおり、上記のような大問題が生じるのを回避する為に『離婚等から6ヶ月経過後でないと再婚してはならない』という再婚禁止期間が設けられているのです。
離婚等から6ヶ月経過後に再婚すれば、上記のような『再婚201日目から離婚300日目』までの間に子が生まれて父親の二重推定が生じる、という事態が避けられるのです。
再婚禁止期間には例外もある
上記のとおり、この再婚禁止期間の規定は、父親の二重推定が生じるのを回避する為にあります。
裏を返せば、父親がはっきりと確定するのであれば、離婚等から6ヶ月を経過しなくても再婚可能なのです。
よって、民法第733条②項では、女性が離婚等する前から既に妊娠していた場合には、その子を出産した後であれば、たとえまだ離婚等から6ヶ月経過しておらずとも再婚して構わない旨を規定しています。
『離婚等する前に既に妊娠していた』という事は、婚姻中に妊娠していた事になりますので、民法第772条①項の規定により、その婚姻中の夫の子と推定されます。
従って、その子が生まれてしまえば、他の者をその子の父親と推定する余地はなくなる訳ですから、その子が生まれた後であれば、まだ離婚等から6ヶ月経過していなくても再婚が可能となるのです。