同時死亡の推定と相続の開始
同時死亡
通常の場合、相続人は相続が開始した時点、つまり被相続人が死亡した時点では、生存しています。
だからこそ相続人は、被相続人の財産を相続する事が出来るのです。
しかし、被相続人とその相続人となるべき者が同時に死亡してしまった場合には、どうなるのでしょうか?
死亡した順番が不明な場合
例えば、父親である甲とその子供である丙が、同じ航空機に搭乗しており、その航空機が不運にも墜落してしまい、生存者はゼロになったと仮定します。
残されたのは、甲の妻である乙と甲の父である丁の2名だけです。
このような事故の場合、甲・丙のどちらが先に死亡したのか?を確認する術は無いといって良いでしょう。
しかし、甲・丙のどちらが先に死亡したかによって、相続の順番に影響が出てくるのです。
〔甲が先に死亡したら?〕
この場合、先ず甲の財産を妻である乙と子供である丙が1/2ずつ相続します。
そして、丙が相続した分を今度は乙が相続します。
この結果、最終的には、甲と丙の財産は、全て乙が相続する事になります。
〔丙が先に死亡したら?〕
では、丙が先に死亡していたらどうなるのでしょうか?
この場合、甲が先に死亡した場合のように最終的に乙が甲と丙の財産を全て相続するという結果にはならないのです。
ではどうなるのか?と言いますと、先ず、丙の財産を甲と乙が相続します。
次いで、甲が死亡した訳ですから、相続人は、甲の妻乙と甲の父丁の2名となります。
法定相続人が配偶者(乙)と直系尊属(丁)である場合には、配偶者(乙)が2/3、直系尊属(丁)が1/3を相続する事になります。
この結果、最終的に財産を相続するのは、甲の妻である乙が2/3、甲の父である丁が1/3という事になるのです。
このように『どちら先に死亡したのか?』によって、最終的な財産の帰属先が変わるケースがあるのです。
同時に死亡したものと推定する
しかし、航空機事故等の場合、『甲と丙のどちらが先に死亡したのか?』を確認する事は、まず不可能と言って良いでしょう。
では、その相続関係は、どのように整理するのでしょうか?
航空機事故等のように『複数人が死亡し、その死亡した順番を特定出来ない場合』には、その死亡した複数人が同時に死亡したものと推定して取り扱われるのです。(民法第32条の2)
つまり、上記の例で言えば、甲と丙が同時に死亡したものと推定する事になるのです。
同時死亡の推定と相続
同時死亡の推定がなされた場合、これにより死亡したものと推定された者同士の間には、相続が開始されません。
先の例で言えば、甲と丙が同時に死亡したものと推定された場合、甲と丙との間には相続が開始されないのです。
何故ならば、『同時に死亡した』という事は、甲が死亡した時には丙も死亡しており、丙が死亡した時には甲も死亡している訳ですから、甲と丙はどちらも相手を相続する事が不可能だからです。
では相続の順番は?
では、先の例で甲と丙が同時に死亡したものと推定された場合、その相続の順番はどうなるのでしょうか?
この場合、甲と丙との間における相続は考慮しませんから、結局残ったのは、甲の妻である乙と甲の父である丁です。
つまり、法定相続人が配偶者(乙)と直系尊属(丁)という事になり、甲の配偶者である乙が2/3を相続し、甲の父である丁が1/3を相続する事になるのです。
以上のとおり、『死亡した順番』というのは、相続財産の帰属先に大きな影響を与えるのです。
≪終わり≫