事実に反する認知をどう争うか?
認知に対する反対事実の主張
婚姻外で生まれた子が父親に認知されると、その子の出生時に遡って父親と子の間における扶養請求権や相続権等が発生します。
しかし、その認知が事実に反しており、その認知がなされた為に身分上の不利益を受ける者は、その認知に対し反対の事実を主張することが出来ます。(民法第786条)
これがいわゆる「認知無効の訴え」と呼ばれるものです。
認知無効の訴え
では、具体的にどのような場合に認知無効の訴えを提起するのでしょうか?
遺産相続が絡む場合
例えば、被相続人である甲が、婚姻外で愛人に産ませた子Aを「自分の子です。」と認めて市区町村役場へ認知届出書を提出する事により認知が成立していたとします。
そうすると、子Aには、甲の遺産を相続する権利が発生します。
この場合、もし甲に子供が全くいなければ、甲の遺産は、第二順位の相続人である両親等の直系尊属
が相続する事になりますし、直系尊属がいなければ、第三順位の相続人である兄弟姉妹が相続する事になります。
しかし、子Aが認知されると、子Aが第一順位の相続人となる為、両親や兄弟姉妹といった他の親族は、甲の遺産を相続する事が出来なくなってしまいます。
或いは、甲にA以外の子供がいる場合には、A以外の子供一人当たりの相続分が減少してしまう事になります。
このように認知された子が生じた為に遺産相続に関して不利益を受ける事となる者は、認知無効の訴えを提起する事が出来ます。
扶養義務を負う場合
兄弟姉妹は、お互いに扶養し合う義務があります。(民法第877条)
ここでいう兄弟姉妹には、いわゆる「腹違い」の兄弟姉妹も含まれます。
例えば、父親甲に妻との間に生まれた子BとCが居たとします。
その父親甲が婚姻外で愛人に産ませた子Aを自分の子供として認知すると、A・B・Cの三者は、腹違いの兄弟姉妹という事になり、お互いに扶養し合う義務が生じます。
この場合、Aが経済的に困窮した者であり、もしAを扶養出来る者がBとC以外に無ければ、BとCにAを扶養する義務が生じてしまう可能性があります。
このように認知された者が生じた為に新たな扶養義務を負わされる事となった場合も認知無効の訴えを提起する事が出来ます。
誰が訴えを提起出来るか?
では、この認知無効の訴えは、誰が提起出来るのでしょうか?
民法第786条では、『子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる』と定めており、『子その他の利害関係人』がこの認知無効の訴えを提起出来るとしています。
認知した本人は提起出来るか?
民法第785条では、『認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない』と定めています。
これを条文どおりに捉えると、子を認知した本人は、その認知について認知無効の訴えを提起出来ない事になります。
では、実際のところはどうなのでしょうか?
最高裁の判例
この点について、平成26年1月14日付の最高裁では、認知した本人も民法第786条に規定する利害関係人に該当し、自らした認知の無効を主張することが出来る旨の判例を示しています。
つまり、認知した本人には認知の効力について強い利害関係があるにも拘らず、『認知の無効を主張してはならない』と一律に制限するのは理にかなっていない、という訳です。
しかし無制限ではない
しかし、だからといって『認知した後で、無条件にその認知の無効を主張出来る』という訳ではありません。
一旦成立した認知をその認知した本人(父親)が取り消すには、血縁上の父子関係が無い事が明らかである等といったそれ相当の理由が必要になるという訳です。
何故事実に反する認知をしてしまうのか?
血縁上の父子関係がある事が事実であれば、当然の如くその認知を取り消す事は許されません。
この認知無効の訴えは、あくまでもその認知が事実に反する場合の話です。
では何故、事実に反する認知、つまり、血縁上の父子関係が無いにも拘らず認知してしまうのでしょうか?
この点については、色々な理由や事情があると思いますが、一例としては、浮気相手の女性から『強制認知の訴えを提起する』と脅迫されて、『自分の子ではない』と思いつつも不貞が妻に発覚するのを恐れる余り、こっそりとしぶしぶ認知してしまう、というケースがあるようです。
認知すると?
認知届出書を市区町村役場に提出する事により、正式に認知が成立すると、その認知した者の戸籍には、婚外子を認知した旨が記載されます。
よって、自分の不貞が妻に発覚するのを恐れてこっそりと婚外子を認知しても、いずれは妻に発覚してしまうでしょう。
≪終わり≫