遺産相続の割合_「指定相続分」
相続分とは?
相続分とは、相続が発生した際に相続人が被相続人の財産等を相続する割合、つまり相続の『分け前』
の事です。
この相続分には、『法定相続分』と『指定相続分』の2つがあります。
『法定相続分』とは、民法の規定に基づく相続分であり、『指定相続分』とは、遺言による相続分の
事を指します。
では、『指定相続分』とはどういったものなのでしょうか? 見ていく事にしましょう。
指定相続分
指定相続分とは、遺言によって指定した相続分の事を指します。
民法第902条においては、『被相続人は、第900条(法定相続分)及び第901条(代襲相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。』と定めています。
つまり、被相続人は、自分の意思により『どの相続人にどれ位を相続させるか』を決める事が出来ますし、或いは、それを第三者へ委託する事も出来るのです。
遺言が必要
しかし、この相続分の指定は、必ず『遺言』によって指定しなければなりません。
仮に被相続人が生前において、共同相続人の全員から同意を得た上で、相続の分け前を口頭等で取り決めておいてもその取り決めは、無効となってしまいますので注意が必要です。
〔遺言の種類〕
遺言には、下記の種類があります。
■普通方式
・自筆証書遺言(民法第968条)
・公正証書遺言(民法第969条)
・秘密証書遺言(民法第970条)
■特別方式
□臨終遺言
・一般臨終遺言(民法第976条)
・遭難船臨終遺言(民法第979条)
□隔絶地遺言
・伝染病隔離者遺言(民法第977条)
・在船隔絶地遺言(民法第978条)
指定方法
上述のとおり、民法第902条では、『~相続分を定めることができる』と規定されています。
つまり、被相続人が遺言によって指定出来るのは、『相続分』なのです。
どういう事かと言いますと、被相続人は、遺言において『自分の財産の三分の二は長男へ、三分の一は次男へ相続させる』といった具合に財産の割合で示す必要がある、という訳です。
しかし実際は?
上記のとおり、条文の文言を形どおりに捉えれば、財産の割合によって相続分を指定するのが建前です。
では、例えば『自宅の土地・建物は長男へ、預貯金は次男へ相続させる。』といった具合に相続させる割合ではなく、相続させる財産を具体的に個別指定した場合は、その遺言は無効になってしまうのでしょうか?
結論から言えば、相続させる財産を個別指定した場合でもその遺言は、有効となります。
遺留分を侵害してはいけない
上記のとおり、被相続人は、遺言により相続人に相続させる割合や財産を自由に指定する事が出来ます。
しかし、だからといって無制限に自由自在に相続分を指定出来る訳では、ありません。
相続人には、『自分が最低限貰う事が出来る額』として『遺留分(民法第1028条)』というものが保証されており、たとえ遺言による相続分の指定と云えども、この遺留分を侵害する事は出来ないのです。
遺留分
遺留分は、誰が相続人になるか?によって次のように定められています。
■直系尊属のみが相続人である場合
被相続人の父母や祖父母といった直系尊属のみが相続人となる場合の遺留分は、被相続人の財産の三分の一と定められて
います。
従って、父母や祖父母は、最低でも被相続人の財産の三分の一を貰う権利があるのです。
なお、もしその直系尊属である相続人が複数人ある場合には、この三分の一を均等に頭割りする事になります。
■上記以外の場合
相続人となる者が、『直系尊属のみ』以外である場合には、被相続人の財産の二分の一と定められています。
例えば、相続人となる者が、『被相続人の子のみ』、『配偶者のみ』、『子と配偶者のみ』、『両親と配偶者のみ』といった
パターンがあります。
兄弟姉妹には遺留分が無い
被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありません。
従って、例えば、被相続人Aには、兄弟姉妹B・C・Dがいたとします。
もし、被相続人Aが遺言により『自分の財産は、全てBとCの二人に均等に相続させる』という内容を指定すると、Dは財産を一切相続する事が出来なくなるという訳です。
Dにとっては、とても気の毒な話ですが、民法にそのような規定がある限り、致し方ありません。
〔遺留分が無い理由〕
では何故、兄弟姉妹には、遺留分が認められていないのでしょうか?
遺留分の趣旨というのは、『被相続人の財産形成に対する貢献度』や『被相続人死亡後の遺族の生活費の保障』といった意味合いがあると言われています。
一般的にみて、被相続人の配偶者や子、直系尊属といった者達は、被相続人と同居するケースが多いのに対し、兄弟姉妹は別生計を営むケースが多いと思います。
よって、別生計を営んでいる兄弟姉妹であれば、『被相続人の財産形成に対する貢献度』や『被相続人死亡後における生活費の保障』といった事情を考慮する必要が無い為だと考えられています。
負債の相続分も指定出来るの?
では、被相続人が負っている借金等の負債についても遺言により、これを引き継ぐ者を自由に指定する事が出来るのでしょうか?
この点については、必ずしも見解が一致していないのですが、負債については、遺言によって指定された割合ではなく、原則として民法第900条の法定相続分の割合によるべきと考えられています。
その理由は、もし被相続人が遺言により負債の承継者を自由に指定出来るとしてしまうと、意図的に資力の無い相続人に負債を承継させる事により、債権者に損害を与えてしまう事になるからです。
負債を承継するように指定された者が『お金が無い』事を理由に自己破産宣告されてしまったら、債権者は、たまったものではありませんからね。
≪終わり≫