贈与申告をすると贈与を証明できる?
贈与税の申告
財産の贈与を受け、贈与税額が算出される個人は、その贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの間に納税地の所轄税務署長に対し、贈与税の申告書を提出し、贈与税額を納付しなければなりません。
贈与税の基礎控除
しかし、贈与税には、「贈与税の基礎控除額」というものがあり、贈与を受けた財産の価格がこの基礎控除額以下であれば、贈与税額は算出されず、贈与税の申告義務を負いません。
では、この贈与税の基礎控除額とは幾らなのか?と言いますと、贈与を受けた個人一人当たり年間で110万円と規定されています。
110万円は措置法特例
贈与税の原則的な基礎控除額を規定しているのは、相続税法の第21条の5です。
これによると、贈与税の基礎控除額は、60万円と定められています。
しかし、贈与税の基礎控除額は、前述したとおり110万円です。
実は、110万円という金額は、相続税法の本法に定められているのではなく、租税特別措置法という別の法律に定められているのです。
具体的には、措置法の第70条の2の4に「平成13年1月1日以後の基礎控除額は、110万円」である旨が定められています。
贈与の成立
贈与の成立について、民法第549条では、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって、その効力を生ずる」と定めています。
つまり、贈与する側が「この財産をあげるよ。」と意思表示し、贈与を受ける側が「有難く頂戴します。」と意思表示する事によって初めて成立するという訳です。
このように当事者双方の合意だけで成立する契約を「諾成契約(だくせいけいやく)」といいます。
贈与契約も諾成契約の一つなのですが、この契約は必ずしも書面による必要はなく、口頭による契約(口頭による同意)でも有効となります。
でも書面を交わした方がよい
確かに贈与契約は、書面を取り交わさず口頭によるものであっても有効です。
しかし、口頭のみによる贈与は、既に贈与を履行した部分を除き、贈与者或いは受贈者のどちらからでもその贈与を取り消す事が可能なのです。(民法第550条)
贈与契約の成立の有無について争いが起きるのを避ける為にも贈与契約は、書面を取り交わす事が大切だと言えます。
贈与申告書は、贈与契約書の代用になる?
ところで、贈与税の申告書を見ると分かるのですが、贈与税申告書には、贈与者と受贈者の氏名や住所、贈与された財産の種類や価格等の詳細が記載されており、贈与された日付も記載されます。
このように贈与税申告書には、贈与契約の成立に必要な情報が全て織り込まれている為、一見すると
贈与税申告書を作成し、税務署へ提出すれば、贈与契約書の代わりになるのでは?と考えられます。
では、果たして贈与税申告書は、贈与契約の代用と成り得るのでしょうか?
贈与税申告書だけではダメ
結論から申し上げますと、贈与税申告書を提出したというだけでは、必ずしも贈与の成立を証明する事が出来るとは限りません。
贈与の成立には、贈与者と受贈者双方の意思表示が成立している事が必要となります。
よって、贈与契約書を取り交わし、双方の意思を確認しておく事が重要となります。
更に大切な事は、表面的にも実質的にも贈与財産が受贈者へ移転しているか否か?という点です。
表面的事実・実質的事実
例えば、土地や建物といった不動産を子供へ贈与していたと言ってはいるもののその登記名義が親のままになっていれば、贈与契約が成立していた事を主張するのは難しいでしょう。
或いは、「親の預金口座の内から子供へ1,000万円を贈与していた」と言っても、その1,000万円が親の預金口座に入ったままになっていれば、やはり贈与契約が成立していた事を主張するのは難しいと思います。
このようにいくら贈与契約書を取り交わしたといっても、その財産の所有名義が、受贈者に変更されていなければ、贈与契約の成立に疑義が生じてしまいます。
その一方で、所有者名義を受贈者に変更する等、表面的な要件を取り繕っていても、実質的には贈与が履行されていないと認定される場合もあります。
例えば、不動産の所有者名義を子供に変更したものの、その不動産を管理し運用しているのが親であれば、不動産の贈与は履行されていなかったと認定されるでしょう。
事実が大切
上記のとおり、贈与契約の成立を主張するには、表面的にも実質的にも贈与が成立していた事を主張するに足りる事実が必要になるのです。
よって、「贈与税申告書を提出する」という行為は、贈与契約の成立の有無を判断する上での1つの材料に過ぎないと言えます。
≪終わり≫