「養子縁組の取消し_婚姻の取消し規定の準用」
養子縁組の取消し_準用される諸規定
詐欺や強迫を原因として養子縁組を取消す場合の取扱いや養子縁組の取消しの効果については、実は、婚姻の取消しの場合の規定が準用されるのです。(民法第808条)
詐欺又は強迫による養子縁組の取消し
詐欺や強迫を原因として養子縁組を取消す場合には、民法第747条「詐欺又は強迫による婚姻の取消し」の規定が準用されます。
取消しの請求
騙されたり、強迫された事によって養子縁組の届出をした者は、その取消しを家庭裁判所に請求する事が出来ます。
これは、『詐欺又は強迫による婚姻の取消し』と同様の取扱いとなっています。
但し、追認した場合等は取消せない
上記の養子縁組の取消し請求は、騙された者がこれに気付き、又は、強迫された者がその強迫から逃れてから6ヶ月を経過してしまうと、取消し請求権が消滅してしまいます。
また、たとえ6ヶ月を経過していなくてもその騙された者又は強迫された者が、改めてその養子縁組を承認(追認)してしまうと、やはり取消し請求権が消滅してしまいます。
〔婚姻取消しの場合は3ヶ月以内に〕
ちなみに詐欺や強迫を原因として婚姻を取消す場合におけるその期限は、詐欺に気付き、又は、強迫から逃れてから3ヶ月以内に請求すべき事とされています。
同じ詐欺や強迫を原因とする場合であっても養子縁組の取消し請求の場合は、6ヶ月以内となっている為、この点で婚姻取消しと養子縁組の取消しとでは、差異が生じています。
養子縁組の取消しの効力
養子縁組を取消した場合の効力については、民法第748条「婚姻の取消しの効力」の規定が準用されます
取消しの効力は将来に向かってのみ生じる
養子縁組を取消した場合、その取消しの効力は将来に向かってのみ生じ、過去には遡りません。
つまり、その養子縁組は、取消されるまでは「有効」、取消された以降は「無効」になるという訳です。
取消しと財産の返還
養子縁組が取消された場合、取消される以前にその養子縁組によって当事者が財産を得ていた場合にはどうなるのでしょうか?
この場合、その財産を得た当事者が、その養子縁組をした時点において、将来その養子縁組が取消される事を知らなかった場合には、養子縁組が取消された時点で現に残っている財産を相手方へ返還しなければなりません。
つまり、将来その養子縁組が取消される事になるとは夢にも思っていなかった養子が、その養子縁組に関連して養親から現金を1億円贈与され、その後、養子縁組が取消された時点で100万円しか残っていない場合には、その100万円を贈与者へ返還すれば足りる、という訳です。
但し、知っていた場合には全額を返還
一方、養子縁組が取消された場合において、その当事者がその養子縁組をした時点において、将来その養子縁組が取消される事を知っていたときは、その養子縁組によって得た財産の全部を返還しなければなりません。
また、その返還請求者が、将来において養子縁組が取消される事を知らなかった場合には、財産を返還する者は、返還請求者に対し損害賠償をする責任も発生します。
例えば、養親になる者(甲)を騙して、乙が養子になったとします。
乙は、将来においてその養子縁組が取消される事を知っていますが、甲はその事実を知りません。
この場合において、その養子縁組に関連して養子である乙が、養親である甲から1億円の現金を贈与され、その後、養子縁組が取消された時点において、たとえ乙の手元に100万円しか残っていなくても甲には1億円を返還しなければならない、という訳です。
しかも、乙は甲に対し損害賠償をする責任も生じてしまうのです。
相手を騙して養子縁組をすると、こっ酷い目に遭うという事ですね。
≪終わり≫