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相続について

推定される嫡出子と推定されない嫡出子

嫡出子とは?

嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある夫婦間に生まれた子供の事をいいます。

法律上の婚姻関係は、婚姻届を市区町村役場に提出し、受理されていなければ成立しません(民法第739条

よって、いわゆる“内縁関係”にある男女間に生まれた子供は、嫡出子とはなれず、非嫡出子となります。

嫡出子には2種類ある?

ところで、同じ嫡出子でも2種類ある事をご存知でしたでしょうか?

実は、嫡出子には、『推定される嫡出子』と『推定されない嫡出子』の2つに分類されるのです。

このように同じ嫡出子でも2つに分類される理由は、民法の嫡出子推定の規定に起因しているのです。

嫡出子推定の規定

 『嫡出子と推定される子とは、どのような子か?』という点について、民法第772条では、下記のように定めています。

  〔民法第772条〕
     (一項)妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
     (二項)婚姻成立の日から二百日、又は、婚姻の解消若しくは取消の日から三百日以内に生まれた子は、
         婚姻中に懐胎したものと推定する。

〔一項について〕

 これは、婚姻関係にある妻が、婚姻中に懐胎(妊娠)した場合には、その子供は夫の子供と推定する、というものです。

 なお、この規定を形どおりに捉えると、仮に妻が浮気をしており、婚姻中にその浮気相手の子供を妊娠してしまうと、この民法の定めによりその子供は、夫の子供と推定されてしまいます。

 夫がこの推定を覆す為には、困難と言われる『嫡出否認の訴え』を提起する必要があります。

〔二項について〕

 これは、第一項にある『婚姻中に懐胎(妊娠)した』という事実証明の困難さを補完する為に設けられた規定であり、この規定により婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定される事により、これが第一項に繋がり、その子供は夫の子供と推定される事になります。

嫡出子と推定される子

 上記民法第772条の要件を満たし、夫の子供と推定された場合であってもこれはあくまでも“推定”なので、必ずしも夫の子供であるとは限りません。

 もし、夫の子供である事が疑わしい場合には、夫は、嫡出否認の訴えを提起してこれを争う事が出来ます。

嫡出否認の訴え

 これは、夫のみが提起する事が出来る手続きであり、しかも、子供が生まれた事を知った日から1年以内に提起する必要があります。

 よって、「自分の子供が生まれた!ばんざい!」と喜んでから1年を経過してしまうと、たとえその子供が自分の子供でない事実を知ったとしても、その子供を「自分の嫡出子ではない」として否定する事は絶対に出来なくなり、その子供は、夫の嫡出子として確定する事になります。

嫡出子と推定されない子

 これは、嫡出子ではあるけれど、民法第772条の要件を満たしておらず、夫の嫡出子としての推定を受けない子が該当します。
具体的には、どのようなケースが該当するか?と言いますと、昨今では増えているいわゆる『授かり婚(できちゃった婚)』です。

嫡出子ではある

 授かり婚の場合、婚姻届を提出し受理される前に既に妊娠している状態です。
その後、婚姻届を提出し受理され、法律上の婚姻関係は成立します。

 その後に生まれる子供である為、法律上の婚姻関係にある夫婦間に生まれた子供ということで、その子供は嫡出子である事に間違いはありません。

しかし嫡出子としての推定は受けない

 上記のケースをよく考察すると、『法律上の婚姻関係が成立する前に妊娠している』という事実があります。
ここで思い出してください。

 民法第772条の規定では、夫の子供として推定される為には、第一項に『妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する』とあります。
しかし、授かり婚の場合は、婚姻関係が成立する前に既に懐胎(妊娠)しております。

 更に言えば、もし、婚姻届を提出する前に既にある程度の妊娠期間を経過していると、婚姻届を提出してから二百日以内に子供が生まれるケースもあるでしょう。
 そうなると、第二項にある『婚姻成立の日から二百日に生まれた子は~・・・』という要件をも満たさない事になります。

その結果、授かり婚で生まれた子供は、夫の子供であるとの推定を受けない事になります。

嫡出子推定を受けないと不都合が生じるの?

では、夫の嫡出子であるとの推定を受けないと何か不都合が生じるのでしょうか?

ここで1つ仮説を立ててみましょう。

ある父親が莫大な財産を残して死亡し、その相続人は息子のみだったとします。
通常であれば、その息子が、被相続人である父親の財産を一手に相続して完結します。

 しかし、その息子が実は、父親の嫡出子としての推定を受けない子供であり、しかもどうやら父親の息子であることに疑義が生じたとします。

 この場合、この父子の親子関係を否定するにつき確認する利益のある利害関係者は、『親子関係不存在確認の訴え』を提起する事が出来ます。

親子関係不存在確認の訴え

 『嫡出否認の訴え』は、夫のみが提起する事が出来、しかも、子供が生まれた事を知った日から1年以内という制限がありました。

 これに対し、『親子関係不存在確認の訴え』は、訴える利益のある者であれば誰でも提起する事が出来て、しかも『1年以内』といった期間制限もありません。

 つまり、父子の親子関係に疑義がある場合には、いつでも・誰でもこの親子関係不存在確認の訴えを提起し、父子の親子関係の存否を争う事が出来るのです。

訴えられるとどうなる?

 上記の例において、もし息子の次順位の相続人が、親子関係不存在確認の訴えを提起して、その訴えが認められてしまうと、父親と息子との親子関係は無かった事になり、その息子は相続権を失う事になってしまいます。

 これに対し、嫡出子としての推定を受ける子供であれば、一旦父親の嫡出子として確定してしまえば、たとえ後になってから「実は親子関係が無かった」という事実が発覚しても、その子供は嫡出子としての身分を失う事は絶対にありません。

結論

 このように『嫡出子推定を受ける子』と『嫡出子推定を受けない子』とでは、『後で父子の親子関係が覆るか否か?』という点で大きな違い生じてきます。

 上記の例のようなケースは、一般的には、中々生じない稀なケースだと思いますが、相続財産が莫大であり相続人同士の人間関係もこじれているいわゆる“争続”の場合には、もしかしたら問題になってくるかもしれませんね。

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