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奨学金返還支援制度

第371号 2025年4月

1.はじめに

物価高や学費高騰を背景に奨学金を利用する学生は増加傾向です。日本学生支援機構(以下、「機構」)の調査によると、奨学金を受給している大学生は55%となっています。貸与型の奨学金では市場金利の上昇に伴って貸与利率が上がっており、今後の返済負担は重くなることが想定されます。

今回は、人材確保の観点から、従業員に代わって奨学金を返還する企業が増えていることを受け、この制度を導入した場合の課税関係についてご紹介します。

2.奨学金返還支援(代理返還)制度とは

従業員の奨学金返還残額の一部又は全部を、会社が機構へ直接送金する制度です。令和6 年10月末時点で、全国で2,587 社がこの制度を利用しています。

従来は、会社が給与に支援金を追加して従業員へ支給し、従業員本人が機構へ返還するという流れでしたが、令和3 年4 月より、会社から機構へ直接送金することが可能となりました。

3.従業員の課税関係

奨学金返還額については学資に充てるために支給されたものとして、所得税は非課税となります。会社が直接、機構に送金することで従業員自身の通常の給与と返還額が区分され、かつ、奨学金の返還であることが明確となるため、非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないという考え方になります。

4.会社の課税関係

会社にとっては、代理返還は奨学金の返済に充てるための給付にあたるため、給与として損金算入されます。また、賃上げ促進税制の対象となる給与等の支給額にも該当することから、会社全体の賃上げ等の一定要件を満たす場合には、法人税の税額控除の適用を受けることができます。

5.社会保険料

給与とは別に会社が直接、機構に送金する場合は、返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかであり、従業員の通常の生計に充てられるものではないことから、原則として社会保険の対象にならないこととされています。よって、会社、従業員ともに社会保険料の負担はありません。

ただし、給与規程等に基づき、給与に代えて奨学金返還を行う場合には、労働の対償である給与の代替措置に過ぎず、社会保険の対象になるため留意が必要です。

6.留意点

返還者が役員である場合や、役員又は従業員の配偶者や親族などの場合には、所得税は非課税とはなりません。

また、この奨学金返還額は通常の給与に加算して支給するものに限られるため、通常の給与に代えて支給した場合、奨学金返還額に対する所得税は非課税にならないため留意が必要です。

7.おわりに

会社、従業員双方にとってメリットがある制度です。都道府県によっては、この制度を導入した会社に対し、支援金等を支給するケースもあるため、導入を検討する場合には自社が対象となるか確認することをお勧めします。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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