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退職所得控除の調整

第373号 2025年6月

1.はじめに

令和7 年度税制改正では、定年引上げ等により企業からの退職金の受給年齢が65 歳以降となるケースを踏まえ、複数の退職手当等の支払を受けた場合に勤続年数の重複を排除して退職所得控除額を計算する「退職所得控除の調整規定」に見 直しが行われました。

この改正は、令和8 年1 月1 日以後に支払を受けるべき退職手当等について適用されます。

2.退職所得控除の調整(原則)

通常、退職手当等ごとの勤続年数に基づき、退職所得控除額を計算しますが、複数の退職手当等を同一年で受け取る場合と、別の年で受け取る場合との整合性を図るために以下の調整を行います。

退職手当等の支払を受けた年の前年以前4 年内に他の退職手当等の支払を受けたことがある場合において、その受給年に支払を受ける退職手当等についての勤続期間の一部が他の退職手当等の勤続期間と重複しているときは、それぞれの退職手当等の勤続期間について重複排除をしたところで勤続年数を計算します。

3.退職所得控除の調整(確定拠出年金の特例)

iDeCo などの確定拠出年金に係る老齢一時金については、60 歳から75 歳までの間にその受給日を任意に選べることを踏まえて、その受給をした年の前年以前19 年内に他の退職手当等の支払を受けたことがある場合において、上記の重複排除規定が適用されます。

ただし、先に確定拠出年金に係る老齢一時金を受給した場合には、その重複排除に係る調整期間は原則どおり4 年内とされていました(改正前)。

4.具体例

例えば、22 歳で就職、30 歳でiDeCo へ加入、⑴60 歳で会社から退職金を受け取り、⑵65 歳でiDeCo の一時金を受け取った場合、iDeCo 一時金を受け取る前年以前19 年内に退職金の支払を受けているため、⑴会社からの退職金に係る退職所得控除額は、勤続年数38 年をベースに計算した金額となる一方で、⑵iDeCo 一時金に係る退職所得控除額は、「加入期間35 年をベースに計算した金額」から「重複勤続年数30 年をベースに計算した金額」を控除した金額となります。

5.改正による見直し

上記の前提を少し変え、⑴60 歳でiDeCo 一時金を受け取り、⑵65 歳で会社からの退職金を受け取った場合はどうなるでしょうか?

この場合だと、退職金の支払を受ける前年以前4年内にiDeCo 一時金を受け取っていないため、退職所得控除の調整の対象外となっていました。このように、受取時期を工夫することで税制上の取扱いが異なることもあり、令和7 年度税制改正により、前述の2.3.に加え、「退職手当等の支払を受けた年の前年以前9 年内に老齢一時金の支払を受けたことがある場合」も調整の対象とすることになりました。

6.小規模企業共済

今回の改正は、前年以前9 年内に「老齢一時金」の支払を受けているケースを対象としたものであり、退職手当等とみなす一時金の一つである「小規模企業共済に係る解約手当金等」については、他の退職手当等の支払を受ける年の前年以前4 年内に支払を受けるものでなければ、同調整規定の対象外となります。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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