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居住用賃貸建物の取得

第318号 2020年11月

1.はじめに

令和 2 年度の税制改正により、同年 10 月 1 日以後に居住用賃貸建物を取得した場合、取得に際し支払った消費税について仕入税額控除が認められないことになりました。

2.仕入税額控除とは?

なぜ、このような改正がされたのか?という点を理解するために、まずは消費税の仕組みを簡単に確認します。

事業者が納付する消費税は、原則として、次の計算式により、課税売上げに係る消費税から、事務所の賃料や交際費、消耗品などの課税仕入れに係る消費税をマイナスして計算します。

納税額※=売上に係る消費税-仕入控除税額

※算式の結果がマイナスとなる場合には還付

この仕組みの趣旨は、各取引段階において二重、三重に消費税が課されないよう、税の累積を排除するため、とされています。あくまでも課税売上げに対応するもののみが仕入税額控除の対象となるというのが原則です。

よって、課税仕入れであっても、課税売上(納税)に結びつかないもの(=非課税売上に対応する課税仕入れ)については、仕入税額控除の対象とはなりません。

3.非課税売上に対応する課税仕入れとは?

消費税法上、社会政策的な配慮等から一定のものについては、消費税が非課税とされています。 例えば、住宅の貸付けや土地の譲渡が該当します。
このため、住宅として貸すために取得した建物に係る消費税については、住宅家賃(非課税売上)に対応するものとして、仕入税額控除の対象としない、というのが基本的な考え方です。

4.住宅の貸付け

非課税となる住宅の貸付けは従来、契約において居住用であることが明らかな場合に限られていましたが、今般の改正にあわせて、契約において用途が明らかにされていない場合の判断基準が明確化されました。

具体的には、契約において用途が明らかにされていなくても、貸付けの状況からみて居住用であることが明らかな場合には、消費税を非課税とすることとされました。

5.課税売上割合による計算

上記 3.で確認したとおり、非課税売上に対応する課税仕入れについては、原則として仕入税額控除の対象とはなりません。

ただし、事業者の事務負担等に配慮し、事業全体の売上高に基づく課税売上割合を基に計算できる簡便法が設けられています。なお、課税売上割合とは、次のように非課税売上げも含めた売上全体に占める課税売上高の割合をいいます。

課税売上割合 = 課税売上高
課税売上高+非課税売上高

具体的には、課税売上高が 5 億円以下であり、かつ、課税売上割合が 95%以上の場合には、課税売上げに対応するものか否かの厳密な区分を行わず、課税仕入れ等の税額の全額を控除することができることとされています。

6.居住用賃貸建物とは?

前置きが長くなりましたが、本題に戻ります。

今般の改正における居住用賃貸建物とはざっくり言うと、税抜 1,000 万円以上の住宅を指し、例えば、賃貸用マンションが該当します。ただし、取得時点では用途未定の物件も、住宅の貸付けの用に供する可能性があるものとして、居住用賃貸建物に該当するため、注意が必要です。

7.仕入税額控除の適用制限

今後、居住用賃貸建物を取得した場合、取得に際し支払った消費税については、課税売上高の規模や課税売上割合に関係なく、仕入税額控除の対象とはならないこととされました。では、なぜ、このような改正がされたのでしょうか?

8.改正の背景

賃貸マンション等の取得を巡っては、今までも課税売上を作り出し、消費税の還付を受けるといった租税回避的な行為が問題となり、これを封じ込める改正が度々なされてきました。

近年は、金の売買を継続して行うなどの手法により、意図的に多額の課税売上げを計上し、課税売上割合を増加させることにより、賃貸マンション等の取得に係る消費税について、本来行われるべきでない仕入税額控除による還付を受けたうえで、課税売上割合の変動による取り戻し課税を回避しようとする事例が散見されていました。

そこで、仕入税額控除の計算を適正化し、建物の用途の実態に応じて計算するよう、今般の改正により見直しがされました。

9.事後的な税額の取り戻し控除

では、取得時に居住用賃貸建物に該当し、仕入税額控除が制限された建物について、その後、用途が変更された場合など、何も手当がされないのでしょうか?実は、取得後おおよそ 3 年以内に次のケースに該当した場合、一定の調整(税額控除)がされます。

  • ① 居住用以外の用途に変更した場合
  • ② 売却した場合

10.居住用以外の用途に変更した場合

仕入税額控除が受けられなかった消費税につき、賃貸料収入を基に計算した一定の税額控除が受けられます。

例えば、居住用賃貸建物を 2 億で取得(消費税2,000 万)し、事業用に用途変更するまでの居住用賃料合計が 600 万、用途変更後の事業用賃料合計を 400 万とします。この場合、次の算式で計算した金額を事後的に税額控除することができます。

2,000 万 × 400 万 = 800 万
600 万 + 400 万

11.売却した場合

仕入税額控除が受けられなかった消費税につき、売却価額を基に計算した一定の税額控除が受けられます。

例えば、居住用賃貸建物を 1 億で取得(消費税1,000 万)し、売却するまでの居住用賃料合計が800 万、売却価額が 7,200 万とします。この場合、次の算式で計算した金額を事後的に税額控除することができます。

1,000 万 × 7,200 万 = 900 万
800 万 + 7,200 万

以上、主な改正点を説明しましたが、ご不明な点は担当者までお問い合わせください。

アトラス総合事務所 税務部門 黒川 洋介
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