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令和 5 年度税制改正大綱

第343号 2022年12月

1. はじめに

我が国経済は、ウィズコロナの下、原材料・エネルギー・物流コストの高騰による物価高等に苦しんでいます。

一方で、日本には 2,000 兆円に及ぶ個人金融資産、500 兆円に及ぶ企業の内部留保などがあり、眠っているポテンシャルを最大限に引き出すことをコンセプトに、税制改正大綱が 12 月 16 日に発表となりました。

2.NISAの抜本的拡充・恒久化

少額投資非課税制度(NISA)が 2024 年 1月に拡充されます。

NISAは国内外の上場株など幅広い商品に投資できる一般型と、投資信託に限ったつみたて型があります。一般型の非課税期間は 5 年、つみたて型は 20 年だったのが無期限となり、制度も恒久化されます。

一般型は投資枠を年240万円(現行:120万円)、つみたて型は年 120 万円(現行:40 万円)とし、富裕層に恩恵が偏らないように合計で 1,800 万円の生涯投資枠が設けられました。

3.所得 30 億円超の超富裕層への課税強化

年間の所得が 1 億円を超えると税負担率が低下する逆転現象「1 億円の壁」を是正する措置となり、2025 年分から適用されます。

会社員の給与所得は高額になるほど税率が上がる累進課税で、最高税率は 55%(所得税 45%、住民税 10%)です。一方で、株式や土地・建物の売却益にかかる税率は一律 20%(所得税 15%、住民税 5%)となっています。こうした株式や不動産の売却益が多い富裕層ほど、税負担率が低くなっています。

改正後は、給与所得や金融所得など合計所得金額から3.3億円を差し引いた上で22.5%の税率をかけ、この額が通常の税額より大きい場合、差額を徴収する仕組みです。

結果、今回の課税強化の線引きとしては、所得30 億円超の人を対象としましたが、わずか 200~300 人ほどとのことです。

4.相続時精算課税の使い勝手向上

生前贈与には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の 2 つがありますが、今回の改正では両方とも見直しがされます。

相続時精算課税とは、贈与したときは 2,500万円までは非課税であり、それを超えた部分は一律 20%の税率となります。

ただし、贈与者の相続発生時には、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算(精算)して相続税を計算することになります。

この制度を使うと、少額であっても贈与税の申告が必要となるため、利用が伸び悩んでいました。これを解消するため、暦年課税と同水準として、年 110 万円までなら申告不要となりました。

この改正は、2024 年 1 月 1 日以後に受けた贈与について適用されます。

5.暦年課税における相続前贈与の加算

暦年課税は年 110 万円までの贈与が非課税となり、110 万円を超える部分に課税されます。現行制度では死亡前 3 年間に贈与した分は相続財産として取り扱われます。

改正後は、この加算期間が 7 年に延長されます。

ただし、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、延長した 4 年間に受けた贈与については、総額 100 万円まで相続財産に加算されません。

この改正は、2024 年 1 月 1 日以後に受けた贈与について、加算期間の延長が適用されます。

6.インボイス制度

適格請求書等保存方式(インボイス制度)については、2023 年 10 月 1 日からスタートしますが、法人の登録率は約 7 割、個人事業主の登録率は 2割に満たない状況です。

この点、円滑な制度移行のため、税負担や事務負担を軽減する措置が講じられました。

① 免税事業者の負担軽減

免税事業者が課税事業者となった場合、納税額を売上税額の 2 割に軽減する激変緩和措置が 3 年間設けられます。

適用にあたっては、事前の届出を求めず、申告時に選択適用できます。

② 一定の事業者の事務負担軽減

基準期間(前々年・前々期)の課税売上高が 1億円以下である事業者等については、インボイス制度の施行から 6 年間、1 万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除が可能となります。

全事業者の 90%が対象となるようです。

③ 少額な返還インボイスの交付義務の見直し

例えば、決済の際に、買手側の都合で差し引かれた振込手数料相当額を売手が「売上値引き」として処理する場合、新たな事務負担になるとの懸念がありました。

このような実務に配慮し、少額な値引き等(1万円未満)については、返還インボイスの交付が不要とされます。

7.外形標準課税のあり方

外形標準課税とは資本金 1 億円超の企業が対象で、赤字でも負担が生じます。ここ最近、大企業による減資が相次ぎ、対象がピーク時の 3 分の 2の 2 万社以下に減少しています。

地方税収の安定化といった制度導入の趣旨を損なうおそれがあり、外形標準課税の対象から外れている実質的な大規模な法人を対象に、制度的な見直しを検討するとされています。

今後、資本金と資本剰余金の合計額で判定するといった基準も追加されるかもしれません。

8.マンションの相続税評価

いわゆるタワマン節税として、最高裁まで争われ、納税者が敗訴した事件がありました。この事件のように、「市場売買価格(時価)」と通達に基づく「相続税評価額」とが大きく乖離しているケースもあり、乖離の実態把握をした上で、通達改正を検討するとのことです。

9.防衛費増額に向けた増税方針

安定的な財源確保のため、2027 年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、対象税目については、法人税、所得税、たばこ税の 3 つに絞られました。

現状、施行時期は明確に決まっておらず、「2024年以降の適切な時期」とされました。例えば、法人税については、法人税額に対し、4~4.5%の付加税が課されますが、課税所得 2,400 万円相当以下は増税の対象外となります。

10.その他

適用期間満了をもって終了するのでは?という話もありましたが、「教育資金の一括贈与の非課税措置」は 2026 年 3 月末まで 3 年延長、「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置」は 2025 年 3月末まで 2 年延長となりました。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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